解説
この記事では4月に公開した「行方不明になったゲーム制作者を探しています」の制作秘話とクリア率検証を行う。
前半は「サイコロ役作り+ローグライト」の着想の話、中盤に「ローグライトの作り方」の話、最後にクリア率集計について書いた。
特にこの記事を書くにあたり離脱率調査を行ったところ、予想外の場所での離脱率を確認したので、その知見も共有したい。
ちなみに未プレイの人はぜひ遊ぼう。
行方不明になったゲーム制作者を探しています

https://hothukurou.com/game/DiceGame/index.html
サイコロ役作り+ローグライトはBalatroから着想した
2024年にリリースされたBalatroというゲームがある。ポーカーとローグライトを組み合わせたようなゲームであり、決められた回数で役を作って得点を稼いでノルマをクリアしていくゲームである。これが世界的に大好評であった。私もドはまりした。

はじめはSteamのみでの配信であったが、2024年9月にはスマホアプリとしても発売を開始し、Steam版ですっかり魅了されていた私は、これをあらゆる隙間時間で遊び続けた。
当時の熱狂ぶりは以下の記事を見るとわかると思う。
ローグライトポーカー『Balatro』モバイル版が配信開始。さよなら、世界の生産性!(ファミ通.com)
https://www.famitsu.com/article/202409/19123
ポーカーという、比較的認知度の高いゲームを下地にしているので世のポーカー好きの指示を受けたのも大きい。やはり既存のゲームを下敷きにするとそのファンを取り込めるメリットがあるようだ。
さらにBalatroではポーカーの中毒性を高めるための要素として「52枚のトランプをアップデートで変更」することができる。さながらアーケードゲームのイカサマ麻雀みたいなことができるのだ。
例えばハート一色にしてフラッシュを狙いやすくしたり、特定の数値で統一してフルハウスやフォーカードを狙いやすくする、といったことができる。大役を毎回揃えることができたらそりゃあ無敵である。
要は「ゲームバランス壊しちゃった感」をプレイヤーに与えてくれる演出がとてもうまかったのだ。
ローグライトというゲームジャンルは、「決められた回数で自分のリソースを強化して有利に立ち回る」ことが面白いジャンルであり、最も有利に立ち回った結果得られる「ゲームバランス壊しちゃった感」はローグライトを楽しくする上でとても大切な要素である。
もちろん、作者としてはこの感覚を与えて楽しんでもらうことが目的なので手のひらの上の話なのだが。
Balatroはこれがとてもうまかった。だからみんなハマった。ローグライトでは、「フラッシュだけで攻める構成」みたいな、特定の攻め方に特化させることをビルドと呼ぶのだが、Balatroは自分の意図通りのビルドを組んで攻められる点で面白かったのだ。
ただ、何度も遊んでいくと気が付くことがある。それは「ポーカーじゃなくても成り立つのでは?」ということだ。
このBalatroというゲーム、序盤はみんなフラッシュやフルハウスなどの大きな役で攻めがちである。しかし、後半の難易度を選ぶにつれ、それがあまり通用しなくなってくる。
大役は安定して揃えることができないためである。52枚のカードを特定のビルドに揃えるためにはどうしても時間がかかるのだが後半の難易度ではノルマが高すぎて手数が足りなくなる。そのため後半の難易度に進むにつれて「ワンペアやスリーカードなどの子役で大きなスコアを出す」プレイングがとても大事になる。子役ならば安定して役を成立させることができるからだ。
ただ、子役はスコアが伸びづらい。それを解決する要素として「JOKER」というボーナスカードがある。JOKERには「特定の役で倍率強化」とか「黒だけとか、絵札なしとか、特定の条件で点数強化」みたいな条件を満たすとスコアが高くなるカードがあるのだが、BalatroではこれらのJOKERカードを組み合わせると爆発的なスコアを獲得することができる。
というかこのゲームのキモは「いかに特定のJOKERを組み合わせてビルドを成立させるか」である。強力なJOKERの組み合わせをそろえるために、JOKERを購入するための資金をいかに貯めていくかを考える。その上で目的のカードが出るまでショップのJOKERリストをリロールしていくことが求められる。
つまり、ポーカーの役揃えよりもJOKERを特定のビルドで揃えるゲームになっていくのだ。
このような構造になってしまうのは、ポーカーが運要素の強いゲームだからであると私は考える。
「運要素の強いゲームをローグライトにすると、ゲーム本編が下振れして負けるとつまらなくなる」という問題がある。RPGで「大ダメージだが、1/2で外す攻撃」が使われない理屈と同じで、人は運要素による攻撃を好まない。負けたらゲームオーバーという環境において、人はアベレージで安定した勝率を満たせる構成を好むのだ。
これを解決するためにJOKERカードがある。JOKERの重要性を上げて「JOKER揃えゲーム」をしていくと、揃えられた暁には安定した勝率でゲーム内のノルマを達成することができる。
そして、そのようなプレイが強いプレイとなる。
このように書くと、ゲーム性に疑問を持つ人もいるかもしれないが、
私はこのような「特定の役を揃えて戦うビルドゲーム」が大好きであるし、実際面白いと思っている。
これを体感できる別ゲームを紹介する。運要素の強いゲーム+ローグライトの例でいえば、スロット+ローグライトゲームである『幸運の大家様』がそれにあたる。

このゲームは「スロット内のリールの絵柄を毎ターン1つ追加する。毎ターンスロット回して止まった絵柄によってお金を得て、ノルマクリアを目指す」というゲームである。
目押しできないスロットなので本当に運ゲーになるのだが、特定の絵柄の組み合わせを見つけて揃えていくと大量得点を獲得できて、それがとても面白い。
例えば、鉱物の絵柄と地質学者の絵柄が隣になると破壊してお金入手!みたいなことが起きる。このような組み合わせを探してビルドの方向性を揃えていくと大量得点を得られる点がこのゲームの面白い点である。
『幸運の大家様』は「特定の組み合わせを揃えてビルドしていくゲームの本質」を捉えた作品だと思っている。
このゲームは「運ゲーじゃないか」と否定的な声もあるのだが、ぜひスマホにインストールして通勤通学中に遊んでみてほしい。1時間くらい遊んでいると、めちゃくちゃ面白くなってくるから。
と、ここまで「運ゲー要素が多いゲームを下地に、ボーナス要素の組み合わせを楽しむゲーム」について紹介してきたが、その発展例として本作の「行方不明になったゲーム制作者を探しています」のサイコロ役作りローグライトは生まれた。
チンチロローグライトと最初は宣伝していたのだが、そこまでチンチロのルールに沿っていなかったのでやめた。
ローグライトのキモは3つ
今回ローグライトの製作にあたり、以下の点に注意した。なお、本ゲームにおいて「状況を有利に進めるBalatroでいうJOKER、Slay The Spireにおけるレリックみたいな要素」のことをボーナスと呼んでいる。
(1)デッキビルドの方向性が複数あること
(2)デッキビルドタイプを決めてから、それを満たすためのボーナスを用意すること
(3)リロールなどで、欲しいボーナスをコストを払って登場させやすくすること
上記を考慮すると案外簡単にローグライトを作成することができる。本作においては、サイコロの目を6でそろえるビルドが最初に思い浮かぶのだが、それ以外にも123で固めるビルド、3を3つ揃えるビルド、4を4つ揃えるビルド、5を5つ揃えるビルドを想定して、それを満たすためのカードを作っていった。
5を5つ揃えるというのはなかなか高難易度であるはずなのだが、一旦全部の目を+1するボーナスで6の目を増やした後で、全部の目を-1するボーナスを獲得すると5が揃いやすいはずなので、そういうボーナスを用意した。
また、123ビルドは必要パーツを安くしたことで、ビルド移行をスムーズにした。
このようにボーナスを作っていく。最後にボーナスを販売しているページを更新するリロールボタンをつけることで、欲しいボーナスをコストを払って登場しやすくする。このくだりはゲーム本編中にサイコロ役作りゲームを面白くするために実際に思考錯誤している内容そのままである。

実は、ゲーム本編で語られている手順でこのゲームは制作している。これは制作者の試行錯誤をそのままシナリオに落とし込んでいる。作っちゃうおじさんのDiscordで新作ゲームのテストプレイを何度か行っており、その時にわかった知見を女の子が思いついたことにして書いているのだ。
そして、ゲームが完成した段階でようやく「よし、これ謎解きゲームしようか」となり、このゲームの全体像が完成した。
謎解きパートについては以前から「猫ちゃんのローグライトゲームを以前公開していたけど、これ女の子が作ったことにしたいな」と思っていたので、そのアイデアをもとに流用した。
これがこのゲームの製作過程である。謎解きパートは「謎解き替わりにゲームをプレイさせて、クリアしたら次に進めるようにしよう」というアイデアにより、本来謎解きに来るべき部分が全てゲームになっている。このようにするとゲームの攻略動画がたくさん投稿されるかなと思ったのだが、あまり投稿されなかったので、みなさん今からでも攻略動画をどんどん配信してほしい。
そういえば作中に登場する別のデッキ構築ローグライトについても記事をかいている。
特に4作目の「勇者ネコのデッキダンジョンゲーム」は上で書いたような「ビルドを決めてからカードを作成する」を忠実に再現している。この方法はかなりローグライト制作にかなり汎用性があるのでぜひ使ってみて欲しい。
Slay The Spireみたいにレリック(サイコロゲームでいうボーナス)を追加したら更に複雑性が上がって面白くなるはずだ。
ゲームクリア率を確認しよう
ここからはいよいよこの「行方不明になったゲーム制作者を探しています」のクリア率や、各シーンでの残留率・離脱率を確認していく。
「行方不明と表示される第一の謎ページ」「サイコロゲーム本編」「第一の謎を超えた第二の謎ページ」「あずさちゃんのブログ」「ブログ内でPassWordを入力して彼女からの要求を受け取る」「第二の謎ページを超えて彼女の場所を特定」「エンディング」と各位置でのページユーザー数を調査した。
みなさんはどこが一番離脱率が高いと思うだろうか。まあ間違いなく「あずさちゃんのブログから彼女のいる場所を特定する謎解きで離脱率が増える」と思うだろう。私もそう思った。
さて結果は・・・!?

序盤のサイコロゲームでの離脱率がずば抜けて多かった。
直前のページからの離脱率を計算すると、このサイコロゲームに挑戦した57.32%の人が離脱している。
あずさちゃんのブログのpass入力から彼女の場所を特定するまでの離脱率も37.00%と高いは高いが、それよりもそのあとの「真・サイコロゲーム」での離脱率が37.19%とこちらの方が僅差で上回っていた。
つまり、「サイコロ役作りローグライトゲーム」が難しすぎたことになる。これは予想外の結果であった。なにせ「作者が100%クリアできる難易度から、さらにサイコロを振れる回数を+10回増やして公開する」という調整をしていたので、まあこれならだれでもクリアできるだろうと思っていたからだ。
今回データ分析により、この難易度調整では厳しすぎることがよくわかったため、今後はさらにゲームの難易度を下げて調整することにした。
もっと早く気が付くべきだった・・・!
まとめ
ということで、振り返り記事を終える。
まさか最初のサイコロローグライトが厳しすぎるとは夢にも思わなかった。
そういえば、最初のコメント欄で「退職してゲーム作りに専念して失敗した」みたいなコメントが複数あり、「最近退職してゲーム制作ばかりしている俺の境遇をうらやましいと思っているヤツが嫉妬して煽っているのか」と思っていたのだが、もしかしたらサイコロゲームがクリアできずにこのブログの退職エントリ記事を参考に書いたのかもしれない。むしろ失敗を前提にして、人生に影響がないように復職含めあらゆるケアしてから辞めたのだから余計なお世話であるのだが。
最初は「彼女との記憶を思い出す…」というリンクテキストをクリックできることを知らない人が書いたのかと思ったのだがデータ上、どうもそこが原因ではないようではある。(最初のページだけ見て遊ばずに離脱する初見離脱はどんなゲームでも15%ほどいるため、気が付かなかった人が多いわけではない)

ともあれ、プレイデータの解析はゲームバランスの適切な調整に必要だと思ったところでこの記事を終える。まだクリアしてないよ!という人はぜひ遊んで、感動のエンディングに到達してほしい。
行方不明になったゲーム制作者を探しています
