デッキ構築ゲームを3作品とにかく作ってゲームデザインを見直した話

デッキ構築って面白いよね

デッキ構築が好きである。最初は弱い初期デッキを、道中手に入れた新カードをデッキに追加したり、既存の弱いカードを破棄していくことでデッキを強化していく行為がたまらなく楽しい。そうして最強デッキを完成させてぶん回すのが大好き!そんな気持ちを体現すべくデッキ構築ゲームをたくさん作ろうと思い立ったのだ。

だいたい一ヶ月ちょっとで三作品ほど公開したのだが、さすがに三作品も公開すると「この部分が面白かった」とか「この部分は改善が必要」とか、そういった知見が貯まってきたのでここで一気に振り返り記事で開放していくことにする。また、前半ではデッキ構築ゲームを1日で完成させる実績も解除できたので、その時に学んだ省工数化ゲームデザイン設計とやる気をだすコツみたいなものも書いていく。

1日でデッキ構築を作れたら最高じゃない?

デッキ構築ゲームは割と複雑なシステムを組む必要があるから、当然ながら開発に時間がかかるものである。

ただ、なんとかして一日でデッキ構築を作れないかと思っていた。一日でゲーム作って公開できれば、コストパフォーマンスが段違いに高くなること間違いなしである。オトクだ。

これを実現するため、ゲームシステム自体も省工数に済ませる工夫をしたのだが、それとは別にイベント参加による外部圧力も積極的に利用した。内省的な力にはどうしても限界があるため、外部から「ちゃんと完成させようね」の圧力を加えていったという寸法だ。

ゲーム完成へ押し上げてくれるゲーム制作イベント

一つ目の外部圧力はあほげーと呼ばれるハッカソンである。このハッカソンは24時間以内に指定されたお題のゲームを作るイベントだ。ちょうど今回の製作意図と合致していたのが運がよかった。

また、作ったゲームの公開先を決められる点も省工数につながる。普通、ゲーム制作は作るだけでなく公開する方法も考えなければいけない。多くの人に遊んでもらいたいから、たとえ無料公開だとしても広告宣伝に時間をかけることになる。そうでなければ誰にも遊んでもらえない。

その点、あほげー用に出展すればある程度の集客能力があるので、公開すれば自動的に人が集まって遊んでくれる。これは広告宣伝などに時間を割かなくてよいこと示していて、非常に魅力的だ。もちろん、もっと遊んでもらいたければ広告宣伝施策を増やしてもよいのだが。

・あほげー

https://ahoge.info/44/index.php

あほげー公式ページより(https://ahoge.info/)

あほげーは広告宣伝の時間短縮以外にも「時間が24時間と決まっているため、タスクの切り捨てができる」という意識が生まれる点がとても良い。ゲーム制作は時間さえ許せるのならばいくらでも仕様を盛り込んだりできるものだが、タイムリミットがある以上「できることだけやる」という方針で時間のかかる実装を切り捨てる判断をしやすい。

 

これ以外にも、実はもう一つイベントに参加していた。それが「もくもく会」である。

・門前仲町インディゲームもくもく会2024年7月13日

https://akimoku2024.connpass.com/event/322510/

門前仲町インディーゲームもくもく会より(https://akimoku2024.connpass.com/event/322510/)

 

「もくもく会」は、会議室や会社のオフィスで缶詰めになってみんなで集中作業する会である。

家で作業すると、どうしても詰まったときにyoutubeやSNSに逃避してしまうものだが、出先であればそこを踏みとどまって集中力を維持することができる。このゲームを制作した時にはバンダイナムコの会社オフィスで作業していた。数多くのゲームを輩出してきたその会社のオフィスで作業するともなれば、さぞ背筋をピンと伸ばして創作に集中できることだろうし、実際かなり集中してゲーム制作に取り組むことができた。

 

上記2点は創作を手助けする強力な外部圧力であり、この成果と日頃のエンジニアリングスキルを持って一日でデッキ構築ゲームを完成させることができた。外圧は強力な推進力になるので、どんどん活用していきたいところである。完成した作品を以下に貼り付ける。このゲームをもとに次からは省工数で済ませるためのゲームデザインの意図を述べていく。

・【デッキ構築ローグライト】漂流猫ちゃん危機一髪ゲーム!

https://hothukurou.com/game/Ship/index.html

 

 

省工数でゲーム完成させるための設計

遊んでみて明らかにわかる省工数の点は自作のイラストである。これは朝起きてゲーム内容決めてから30分で一通り作成した。以下画像の画面上が自作イラストだ。画面下にある非常に視認性の高いカードイラストは有償の素材を使っている。

カード種類も5種類にした。カード種類は少なければ少ないほど実装が楽であり、デバックも容易に終わる。実装とデバック、バランス調整の3つが主な作業だとすると、カード種類を増やしていくとカード間シナジーが指数的に増えていき、それに伴いデバックやバランス調整が複雑になる。二乗で工数が増えていくイメージである。なので極力カード種類を減らすことを意識していた。

デッキ構築の強化要素といえば、新規カード入手、カード能力の強化、デッキ破棄の3つがある。このゲームはそのうちのカード能力の強化とデッキ破棄を同時に行うためのギミックとして「合成」というカードを追加した。この合成というカードは「二枚の同じ種類のカードを破棄して、より強いカードを生成する」効果があるので、まさしく強化と破棄の両方を同時に行うことができて都合が良い。

それと新規カードを入手するためのアイテム袋カード、行動のリソースとなる満腹度回復カード、このゲームの目的である本州到達を行うための移動カード、最後にモンスターを攻撃するための攻撃カードの5種類が本ゲームで登場する全てのカードである。

非常に小さくまとめることができた。よく見るとモンスターが定期的に登場し、攻撃カードで倒す必要があるという要素については丸々省略しても成り立つのだが、さすがにこの要素を減らすとリソース管理要素としては非常に単純すぎてしまうので残している。

これらの要素を含めて、あほげーハッカソンのテーマ発表から2時間程度でアイデアを決め、1時間でイラスト作成や素材を用意して、7時間の実装+デバック+調整で完成まで持っていくことができた。我ながら最速で制作できたと思う。完全新規で開発したので、かえって既存のリソースとの整合性を考えなくてよかった点が大きいのかもしれない。

試しにもくもく会参加者に遊んでもらったところ、ルールを知らなくても遊べるゲーム性と思考力を求められる高い難易度から結構好評をいただけた。

あほげーに出展したところ、これまた多くの人に遊んでもらえた。SNS上でクリアターン数を減らす試みも行われ、いかに少ないターンでクリアできるか盛り上がっていた。これに味を占めて「デッキ構築ゲームをもっと作っていこう」と次回作を考案していくことにした。

・武装猫ちゃんのモンスター討伐ゲーム

https://hothukurou.com/game/CatBattle/index.html

 

 

 

前回よりも時間がかかったダンジョン攻略ローグライトゲーム

前作公開の勢いも知見もあるので、次もいけるでしょ!と意気込んでダンジョン探索スタイルのデッキ構築ローグライトゲームを作ったところ、2週間もかかってしまった。まあ、2週間といっても平日は普通に働いているわけなので、実働時間はもっと短いのだが。

それを考慮しても制作期間が長くなってしまったのは、前作で獲得した知見を使おうと躍起になったり、新要素を追加できるようにゲームデザインを再調整することに時間がかかった影響である。カード種類を増やすと工数が二乗で増えていく典型的な例だろう。最後はもくもく会に参加して外圧を受けて完成までもっていった。

今作は敵を倒すことに重点を置いたデッキ構築ローグライトである。前作における敵は「移動を妨害する障害物」でしかなかったが、今作では敵討伐こそが目的となっている。正直こっちの方が素直でわかりやすいルール設定だと思う。

カード強化、入手に新要素を追加した

今作は、指定したカードのパラメータを強化するクリスタルカードがあり、これを用いる事で1ターン消費してカードの強さをいくらでも増やすことができる。無限に強化できてしまわないように、敵も一定ターンで増加するようにして、時間をかけすぎると大ダメージを与えてくるようにした。前作に引き続き合成カードも健在であり、強化量はクリスタルに劣るものの、不要なカードを破棄できる点において優れている。クリスタルと合成、どちらで強化していくかというのが悩みどころとなるようにゲーム性を設計した。

また、新カード入手方法も「敵から倒すと宝箱カード入手」に変更した。前作は、最初に入っているアイテム袋が全てデッキからなくなると、二度とカード補充できなくなるという仕様があり、これはハマりポイントにもなりうるので良くないなと思っていた。

今作では「敵を倒すと宝箱を入手でき、この宝箱を使うと新カード入手」をできるようにした。新カードは強いカードが入っており、デッキ強化につながる。だが、この宝箱を開けるという行為自体に1ターンを消費するため、あまり宝箱を入手しすぎるとターンを無駄に消費することになり、取捨選択を迫られるようにしている。

こういった「行動から結果を得るまでの時間的遅れ」の要素はジレンマになることが多く、ゲーム性を深くするためによく使っている。将来的に有利になるためにパワーアップを選ぶか、生き延びるために目の前の敵を倒すかを悩む楽しさがあるということである。

行動から結果を得るまでの時間的遅れ」は延長可能な仕組みがある。本作では入手カードをデッキトップに追加するようにしているが、これを捨て札に追加することで時間的遅れを延長することができる。私は入手したカードを即使えた方が楽しいと思っているのでデッキ追加を選んでいるが、デッキ構築ボードゲームのドミニオン一人用デッキ構築ゲームのロビンソン漂流記では捨て札に追加している。時間的遅れを延長した方が、安易に将来的にも得をする選択を選びずらくなり、大きなジレンマが加わるからだろう。

この二つのボードゲームを聞いたことない!という方はぜひリンク先から遊んでみて欲しい。特にドミニオンはデッキ構築ゲームの元祖であるから、一回は触れておくべきである。

今作のカード種類は6種類であり、前作よりも1種類増えている。このゲームもなかなか好評だったのだが、1ターンに1枚しかカードを使えない都合上、デッキ構築ゲーム特有のコンボ要素がない点が不満だったため、次回作では1ターンに何枚ものカードを使えるようにカードの使用コストの概念を設けることにした。

・ゴシック猫ちゃんと宝石の塔ゲーム

https://hothukurou.com/game/Jewelry/index.html

 

 

コストを消費して大量攻撃するデッキ構築ローグライトゲーム

完成したのがこちらである。制作期間は前作の2週間を超えて3週間かかってしまった。

今作は第一作と同様にもくもく会に参加して外圧を与えつつ制作開始したものの、さすがに一回では完成できなかった。ゲームシステムの大幅な変更による仕様の整合性に悩みまくった結果、ここまで公開が伸びてしまったのだ。やはりシステム量を増やすと二乗で工数に乗っかってくることがわかる。

本作は、「とにかく1ターンにカードをバンバン使うゲームにしたい!」という思いが優先してできたものである。そのためのカードコスト制である。宝石のコストをターンはじめに入手しつつ、この宝石を消費してカードをどんどん使っていくゲームシステムにした。そしてこのコスト制がこのゲーム開発においてもっとも調整に苦しめられた点になった。

コスト種類が多すぎるとわかりずらくなる

公開時には宝石コストの種類は3つになっているが、元々は4つもあった。

これが当時のポストである。

この4種類のコスト、実際に遊んでみると非常にわかりづらいことがわかった。自分が今どれほどコストを得て、最初のコストを獲得した時にどのカードを使えるようになるのか非常に理解しづらいのだ。

これに気が付いたので、コストは3種類に減らした。これだけでもだいぶわかりやすくなった。

コストの種類を複数にした理由は、複雑性が上がって面白くなりそうだからである。開発当時はあまり意識してなかったが、宝石を使ってカードを獲得するボードゲームの「宝石の煌めき」に影響を受けた気もする。ただ、今振り返ればコストを複数にする複雑性は面白さに寄与するのか不明であるため、デッキ構築ローグライトにおいてはコストは一種類で良かったように思う。

一世を風靡したデッキ構築ローグライトゲームである「Slay The Spire」はコストの種類は1コストしかない。DCGである「ハースストーン」や「シャドウバース」もコストは1種類しかない。コスト種類を1種類にしても、そのコストでカード使用をどうやりくりするのかを考えるのが十分に面白いと感じるのだろう。

ともかく、このあたりの調整に四苦八苦してゴシック猫のデッキ構築ゲームは公開にだいぶ苦労したのだった。感想を見る限りだと、面白いと感じる人が多数いた一方で、今作はカード入手にランダム性が多く、また前述のコスト管理複雑問題で苦言を呈する方もいた。そもそもにしてデッキ構築ゲーム自体が運要素が絡むものであり、前に作った二作に運要素があまりないことの方がデッキ構築ゲームにおいて異端なのだと思っている。

面白い知見が得られた一方で、苦い知見も得た結果となった。

エンドレスモードはいらなかったかも

本作は1ターンに複数カードを使える都合上、従来の「クリアターン数で優劣を競う」システムであまり差が出にくくなっていた。それを改善するために「いくらでも遊べるエンドレスモード」を追加したが、結論から言えば今後はエンドレスモード廃止でもよかったかもしれない。

どういうことかと言えば、エンドレスモードは飽きるまでずっと遊べてしまう都合上、ゲームのクリア感を著しく損なう問題があるのだ。SNS上に「飽きたからやめる」というネガティブなポストを複数現れる結果となった。人は欲望に関しては腹いっぱいまで得ようとする性質があり、得ようとし続ける時が一番ポジティブな感想を残す一方で、実際に腹いっぱいに得て飽きてしまうとネガティブな印象を残してしまうものなのだ。これは口コミで広げてもらうタイプのゲームにおいては致命的な問題点である。

できれば腹八分目のいちばん気持ちがよいタイミングでクリア離脱してもらうのが一番ゲームに良い印象を持ってもらえるだろう。ということで、エンドレスモードについては今からでも消してしまおうかと考えつつも、「さすがに実装した後で消すのは良くないよな」と思いとどまっている次第である。人間って難しいね!

まとめ

以上で、デッキ構築ローグライトゲームを3作品も立て続けに制作した結果を振り返った。

制作した本人でも繰り返し遊べてしまうゲームを三作品も公開できた上に、ゲーム制作の知見を得ることもできたので、作者としても非常に有益であった。

上記の文章をざっと要約して改めて残す。

・もくもく会やハッカソンに参加すると制作スピード向上できる。

・デッキ構築は「新規カード入手」「カード強化」「カート破棄」の3点でデッキを強化する。

・合成カードは「カード強化」「カード廃棄」を同時に担えて便利。

・入手・強化したカードを使えるようになるまでの「時間的遅れ」をどの程度に設計するのかを考える。入手・強化したカードをデッキトップに置くか、捨て札に置くかで時間的遅れの長さをコントロールすることができる。

・カードコストの種類が多いと複雑性があがるので、それが面白さに寄与するのか真面目に検討した方がいい。

・エンドレスモードは求められるが、実際作るとゲームクリア感なくなって最後の印象がよくない。

ちなみに四作品目も作成する予定だが、どんなゲーム性にするのかはまだ未定である。

ただ、次はストーリーも入れる。この3作のゲームで悩んだ体験をそのままシナリオにしたい。進路に悩む女の子がこの3作を作ったということにしてシナリオを展開して、就活に詰まった挙句にとんでもない地獄のゲームを生み出してほしい。そんなマルバツゲーム進化論みたいな急転直下なシナリオと展開を想定しているので、ぜひ完成を楽しみに待ってもらえると幸いだ。

ちなみに作者のデッキ構築ゲーム遍歴をさかのぼると、2012年に制作した「カードの不思議なダンジョン」からはじまる。これはFLASH製なので現在は公開していないが、これのリメイク作を2016年に作成しているので、興味のある方は遊んでみることをお勧めする。

・黄泉からの帰還

https://hothukurou.com/game/HTMLCard/index.html