この記事は24/02/23に公開した、パズルとローグライクを組み合わせたダンジョンを作り替えるローグライクゲームであるダンジョンデストロイヤーの制作振り返り記事である。
まだ遊んだことのない人はすぐに遊んでみてほしい。ローグライクゲームといえば一回のミスですぐにゲームオーバーになってしまうものだが、このゲームは「ミスっても何度も繰り返し同じ階から遊べるシステム」だから、気軽に試行錯誤しつつダンジョン攻略することができる。
・ダンジョンデストロイヤー
https://hothukurou.com/game/Digger/index.html
パズルゲームを拡張したらローグライクになった
このゲームはパズルゲームでよく指摘される問題点から思いついた。
私はよくホラーパズルゲームを公開している。これは、ブラウザゲームではアクションゲームのような激しい操作は遊びにくいためである。リアルタイム性があまり問題にならないゲームジャンルとしてパズルゲームを選んでいる。ただ、パズルゲームというジャンルを選んだことによるフィードバックとして「答えが1通りしかなく、それをなぞることに創造性がない」点をよく指摘される。
もちろんパズルが好きな層は作者の想定した答えを推測して辿る行為が楽しいのだから、「パズル好きな層とそうでない層の価値観の違い」で説明できてしまうのだが、この話からどうも「自分で考えたテクニックで打開したい」というモチベーションでゲームを遊びたい人がいるようなのである。
この行為で得られる楽しさを、一旦ここでは「創造的な楽しさ」と仮定しておく。もっと良い言葉があるような気もするが思いつかなかったのでこのまま進めていく。
想像的な楽しさは、答えが複数通りあるパズルゲームにすることが一つの解決策になる。例えばもじぴったんは、文字パネルを画面に設置して、複数ある言葉の中から自分で考えた言葉を1列にそろえるといった創造的な楽しさがある。「他の人が考えもしないような言葉を設置する楽しさ」が人気の秘訣だろう。
似たような要素だと「物理演算系パズルゲーム」も物理演算特有の複雑な挙動が最適解を複数検討させる要素となり、創造的な楽しさを生み出している。例えば、スマホアプリで大ヒットしたQはまさに創造的な楽しさの代表例だ。
このような答えが複数通りあるパズルゲームを作りたい。できればパズルの文脈でやりたい。何かないか・・・。
と、パズルゲームの課題意識をここ数年持っていたのだが、ふとしたことで解決の糸口が見えた。「ローグライクの各階をパズルのように繰り返し遊べたらよいのではないか」と。
ローグライクゲームは、敵を倒したり武器防具を入手することでプレイヤーのステータスを向上させつつダンジョンの各階層を進んでいくゲームであるが、プレイヤーは各階ごとに最善な状況を選択して攻略していく。その最善な状況はプレイヤーの狙いによって複数の回答があるはずで、そこには創造的な楽しさがあるはずである。
ここまで考えて「これ、かなり面白いんじゃないか」と思えてきたので早速制作を開始した。このゲームは「パズルゲームの拡張として制作したローグライクゲーム」なのである。
パズルゲームなので当然各階ではやり直しボタンがあり、納得のいく結果になるまで繰り返し試行錯誤することができる。
ただ、ローグライクとしてみるとやり直しボタンはあまりみない実装である。トルネコやシレンでは現在の階をやり直せる「やりなおしの巻物」というものがあるが、使用するとなくなってしまう。本作のような無限回繰り返せる仕組み自体が珍しい。
この部分はパズルの文脈であるが、「たとえクリアできたとしても、もっと良い結果になるまで試行錯誤繰り返せる」点が従来のローグライクにない新鮮な面白さにつながっている。
ゲームシステムは最短経路探索アルゴリズムを見て思いついた
敵が自分の元へ向かう道順を調べる最短経路探索や、将棋の次の一手を考えるゲーム木探索アルゴリズムなどのゲームでよく使うアルゴリズムを可視化してみると、そこから新しいアイデアを思いつくことがある。
このダンジョンデストロイヤーのパズル要素は最短経路探索を使った簡単なプログラムを作った時に思いついた。
ふと、最短経路探索プログラムを動かしてみたけど楽しいな。
— ほっとフクロウ(作っちゃうおじさん) (@hothukurou) January 7, 2024
動いて当たり前の世界に慣れ過ぎてしまったので、こういう動いて楽しむ感覚を忘れていた気がする。
A-starはnpmにちゃんとライブラリがあったしすぐ使えた。いい時代! pic.twitter.com/0fvMzUhNHT
今回経路探索ライブラリはこのpathfindingというライブラリを使った。 自分で実装するのも頭の体操にもなってよいのだが、今回は単純に動いているところが見たかったので優秀なライブラリをそのまま使うことにした。
https://www.npmjs.com/package/pathfinding
オレンジ色の壁を交わして、白丸が黄丸に移動するだけなのだが、クリックで壁を消したり作ったりすると動きが変わるので観ていて大変面白い。この壁を消したり作ったりする動作がそのままダンジョンデストロイヤーのゲーム要素に繋がっている。
アルゴリズムの可視化は興味深く、新しいゲームのアイデアのきっかけになる。もしゲームのアイデアが思いつかずに悩んでいる人がいるならば、一回適当なアルゴリズムを可視化してみるとよいアイデアが思いつくかもしれない。ちなみにこのサイトがゲームのアルゴリズムをまとめていて面白いのでぜひ見てみよう。
・Red Blob Games
ちなみにダンジョン生成は「棒倒し法」で生成している。ドルアーガの塔でもこの棒倒し法をベースにしたアルゴリズムで生成しており、とにかくシンプルに書けるのがメリットである。
以下は迷路生成の関数だ。initMaze関数で作成した二次元配列について、downStickMaze関数を実行すると”1″を壁とした迷路が作成できる。30行で迷路が完成するのだから楽ちんである。
女ドワーフ流行らないかな
昨今イラストの風潮として「太ももなどを大きめに書いた肉感高いキャラクター」がウケているようだ。2023年には初音ミクの太ももをむちむちにしたイラストが話題となった。
・「レーシングミク 2023Ver.」の太ももが、ムッチムチ!「ライザ」を手掛けるトリダモノ氏が担当
https://www.inside-games.jp/article/2022/12/19/142641.html
初音ミク GTプロジェクト2023
— GSR公式アカウント (@goodsmileracing) December 17, 2022
🎊キービジュアル発表🎊
レーシングミク 2023Ver.
イラスト:トリダモノ(@toridamono)
PV: https://t.co/3hCz0ymqBP#fightgsr #初音ミク #レーシングミク pic.twitter.com/SnMX2Rpezn
この方向性は私の癖とも一致しているから、ぜひ発展させていきたい!ということで今作はドワーフの女の子になった。イラストは2022年オモコロ杯で銅賞受賞したことから知り合ったサファリさんという方だ。
ボードゲーム「ギャル短歌七七」などのデザインを手掛けており、非常にクオリティの高いデザインを手掛けている方なので、今回を良い機会にとゲームのイラストデザインをお願いして作成してもらった。
ゲーム公開後の数時間でファンアートが来たので、みんなの心のどこかには刺さったんじゃないかなと思っている。みんなもどんどんファンアートを描こう!
ダンジョンデストロイヤー公開おめでとうございます!
— アレン (@uaaaalen) February 23, 2024
勝手にファンアート描きました pic.twitter.com/VQGVmMnC3r
このゲーム、もっと要素追加できそう
このダンジョンデストロイヤー、敵の移動方向を指定するパネルの追加や、罠の概念、新しい能力を持つモンスターなど、もっと要素を色々追加できそうである。ブラウザゲームはラフに遊べることに需要があると思っているので基本的にはわかりやすさ重視で要素を最小限にすることを心がけているのだが、ちゃんと製品として発売するならばあらゆる新要素を追加して販売計画を立てるのも面白そうである。
私は基本的にブラウザで無料公開しているのだが、一度販売系もやってみたかったのでやるならこのゲームからだろうなと思っている。本業やりつつ販売作業するのは結構時間的に厳しそうではあるので、月1のゲーム公開とも合わせてどうやって時間を有効活用するのかが課題だ。みんなどうやってるんだろう。
ちなみに、本作は結構自信作ではあるのだが、もうちょっと話題になってもいいなと思っており、想定よりも広まっていない点が悔しい点だ。おそらく直感的に面白そうと思ってもらえる「見栄えの良いゲーム画面が不十分」である点が多いので、この点は今後も意識して取り組んでいきたい。パズルゲームで見栄えを追求しても難しいので、結局のところ公開日まで全然思いつかなかったのだが。
ハイパーカジュアルゲーム広告みたいに、「下手な人が遊んでいるPV動画を見せて、自分ならもっとクリアできると思わせる」手法がよさそうであはるのだが、ちょっと腑に落ちないので、何かこのゲームのうまい魅せ方があればぜひ教えてほしい。
色んな人に助けてもらった
今回、以下のゲーム制作に一家言ある人にテストプレイをお願いした。
ニカイドウレンジさんからはチュートリアルの文章を添削していただき、おかげでだいぶ読みやすくなった。基本的に人は想像以上に説明文を読みたくないものである。これはゲーム制作をいくつも作っていてつくづく思うことであるので、一画面一行程度まで説明をそぎ落とすことはゲームの離脱率を下げる効果がある。また、「元の経路より遠くにあるアイテムほど強い効果があった方がリスクとリターンが取れて面白い」というアイデアをいただき、これも採用した。
元の経路より遠くにあることの計算が難しそうだと最初は感じていたのだが、よく考えたら以下の式で出せることに気が付き5分で実装することができた。
(レアリティ値) = (プレイヤーとアイテムまでの歩数) + (アイテムと階段までの歩数) – (プレイヤーと階段までの歩数)
現状でも、このレアリティ値と現在階層をもとにアイテムの強さを決めている。なので、強いアイテムを取ろうとすれば遠回りしなければいけないようになっている。
ゲームデザイン相談室やりました。ゲームは既にめちゃ面白かったのでその面白さをさらに一段引き上げるにはという話をしました。
— ニカイドウレンジ (@R_Nikaido) February 12, 2024
チュートリアルの伝え方について質問頂いたので改善方法についてレクチャーしました。主に「伝えなくていい情報」が沢山あるよという話をメインにしました。 https://t.co/vl6Ire4l7a
また、テストプレイに関してはアツシさんという本職のディレクターの方にも遊んでもらった。
この方には「ゲームが詰んだ時、ゲーム画面を閉じるのではなくて新しくゲームをはじめるためにはどうすればよいか」という課題解決に協力していただき、結果的に強くてニューゲームできる奥の手の実装に繋がった。
元々、この奥の手は「敵を強制消滅させて簡単に次に進めるようにする」というとんでもチート機能を実装予定だったのだが、これをツイートしたところ、それじゃあ面白くないとアツシさんに指摘していただき、その時にテストプレイを頼んで遊んでもらったのだ。この奥の手を使ってクリアした人がどれだけいるのかを実は計測しているので、この後クリア率の発表に移りたい。
テストプレイやアイデアの提供などで協力させていただきました。
— アツシ/常に祈ってるヒト (@Taikyoku_zu) February 23, 2024
サクッと遊べるのに、ついついハマってしまうゲームです!みなさま、連休中にどうぞお楽しみください。 https://t.co/oBxd6ld2Vp
クリア率振り返り
さて、ここからはクリア率を振り返ってゲームの難易度を確認しつつ、「どれだけの人が奥の手を使ってクリアしたのか」を見ていきたい。
上記でも書いたが、奥の手の実装は「ゲームが詰んだ時、ゲームを離脱せずに新しくゲームをはじめさせるためにはどうすればよいか」という課題解決のために設置したものだが、実際の利用率を見て今後の採用を検討したいところである。さて、クリア率を見ていこう。ちなみに今回非常に興味深いデータが取れたのでクリア率の右側に(クリア人数/挑戦者数)を記している。
・おきらくダンジョンクリア率
奥の手なしクリア:29.15% (539/1849)
奥の手ありクリア:2.00% (37/1849)
・てごわいダンジョンクリア率
奥の手なしクリア:16.33% (200/1225)
奥の手ありクリア:1.71% (21/1225)
・げきむずダンジョンクリア率
奥の手なしクリア:13.26% (477/3597)
奥の手ありクリア:0.58% (21/3597)
注目すべき点は2点、「奥の手使ってクリアした人はほとんどいない点」と「げきむずの挑戦者数がめちゃくちゃ多い点」である。
奥の手を使う人はあまり多くないのだろうから、今後は実装しなくてもよさそうだ。そもそもの目的である「ゲームが詰んだ時の離脱率防止」はこの数字だけ見ても判断つかないので、もうちょっと別の指標を用意すべきだったが、人が離れる瞬間をどうやって計測すればよいか思いつかなかったのでとりあえずクリア率を見て判断するしかなさそうだ。
今回の難易度を考えると、おきらくダンジョンクリア率3割弱は妥当と考えている。もうちょっと簡単なダンジョンがあってもよかったかもしれないが、そこまで敷居を下げて遊ぶ層はどちらにせよ長続きしないだろう。
一方で、げきむずダンジョンのプレイ人数がおきらく・てごわいよりも二倍弱も多いことは意外な結果である。このような結果を見ると「このゲームが面白かったから何度も繰り返し遊んでいる層」が多いことがわかる。とても嬉しい限りである。
もっと高難易度版を出すべきかという話であるが、現状のげきむず難易度は「ちゃんと頭使えばほぼクリアできる」ように設定されており、これ以上上げると運ゲー要素が高すぎてしまう。パズル要素がコンセプトの軸にあるので、運は絡んでも運でクリアできないことは極力避けたいので、現状のままが良い気がしている。やるなら一方通行床やモンスターハウスなどを実装した続編を作るのがよさそうである。
ちなみに、げきむずダンジョンは作者が3回遊んで3回連続クリアできるように調整しているので、多少運が悪くてもクリアできることは確認済みだ。ぜひテクニックを磨きつつ頭を使って挑戦してほしい。
まとめ
以上でダンジョンデストロイヤーの振り返り記事を終える。
正直Auto matonや電ファミニコゲーマーにも取り上げてほしかったくらいゲームが面白いことに自信を持っているのだが、それが叶わなかったので次のゲームで見返したいところである。
https://hothukurou.com/game/Digger/index.html
おまけ
ちなみに、今回のコンセプトとはずれた発想で「ただ気持ちよくずっと遊んでいられることをコンセプトとしたOLゲームシリーズでこのゲームデザインを再設計したらどうなるか」というアイデアもあり、こちらは比較的短期間で公開したいので期待して待ってほしい。
OLシリーズは「リスクがなく、とにかく数値が増えて気持ちよい」ことをコンセプトにしており、これは「リスクとリターンのバランスを楽しむスリル」を追求したダンジョンデストロイヤーとは全く違った方向性になる。こんな要素があったら気持ちよいなというアイデアがあればぜひコメント欄に書いてほしい。こちらは趣旨がユーザーの要望と合致する可能性が高いので、気楽に作れるだろう。それでは!
・漁業とOL