子供のころに遊んだゲームの記憶は大人になってもずっと残っているものである。クリアできたゲームならばまだよい思い出として残るのだが、クリアできなかったゲームだとそれはもういつかリベンジしたいという強い未練が残り続けるものだ。
今回はそんな少年のやり残しを大人になってから回収してきた話をしていく。
(1)プロップサイクル
(2)ナンジャタウン もののけ探検隊
(3)ナンジャタウン 蚊取り大作戦
プロップサイクル
プロップサイクルは1996年にナムコから発売された体感サイクリングゲームである。
アーケードゲームであり、当時最寄りのデパートのゲームセンターコーナーにこの黄色い自転車が設置されていた。空飛ぶ黄色い自転車を漕ぎながらハンドルを動かして風船を破壊するゲームである。実際にペダルを漕がないと浮力を失って墜落してしまうから常に漕ぎ続ける必要があり、非常に疲れるゲームであるのだが、子供のころの私の有り余る体力を消費するにはうってつけの娯楽機器であった。
空飛ぶ自転車を操作して風船を割っていく気持ちよさはとても面白く、子供のころは紙の上にマップと風船を書いて鉛筆プロップサイクルなるものを発明して弟と遊んでいた。
当時そこそこ人気があったのか、このゲームは様々な場所で設置されていたのだが、ある時からぱったり姿を見なくなってしまった。どうやらペダルやハンドルなどの稼働部位が多いゲームなので、機械的消耗による故障が多かったようだ。
これを社会人になってから遊びたくなってしまった。子供のころはデパートに行く度に父親からもらえる100円を使って1プレイだけ遊んでいたのだが、社会人であればその財力で1000円だって使うことができる。10プレイもあれば完全クリアもできるだろうと自信満々でこのプロップサイクルが設置されているゲームセンターを探し始めた。それからというもの、ゲームセンターを見かける度にプロップサイクルが置いていないかチェックしていたのだが、前述のとおり故障が多い機種であり、場所も取るためかどこにも設置されていない。公開から20年以上経過した2017年の話だからしょうがない。
古いゲームをクリアするためには、まずそのゲーム機が置いてある場所を自分で調べなければならない。古い情報だと撤去済みであることもあるため、近年の目撃談を中心に捜索する。ハンター試験会場を探す時ってこんな気分なんだろうなと思いつつ情報収集を行っていた。
そしてついに、関東にあるレトロゲームを保存している施設で遊べるという情報を入手した。当時関西に住んでいたのだが、どうにかして遊びたい。ちょうど年末だったので、関東に帰省したついでに遊ぶことを思いついた。電話で問い合わせてみたところ、現在は貸し出し中で、南越谷にあるデパートのゲームセンターにレンタル中との回答。1996年発売から20年以上経過したアミューズメントマシンにしてみたら、もう老後の余生を保管施設で過ごすつもりだったろうに、まさか現役時のようにデパートのゲームセンターに復帰するとは、とんだ抜擢人事である。その事実に驚きながらも私は南越谷まで移動していった。
確かにデパートにプロップサイクルは設置されていた。「これはクリアまで遊ぶしかない!」と100円玉を20枚以上確保して早速ゲームをプレイする。
ゲーム開始時に、初級と上級を選ぶことができる。初級はポイントアタックモードといい、3つのステージから1つを選んで、制限時間内にマップ内にある全ての風船を割ることができればクリアである。
このモードはそこまで苦もなくクリアすることができた。リトライも2~3回程度。初級者モードなだけあって、ここまでは楽勝である。
私は意気揚々と上級のストーリーモードをプレイすることにした。
ストーリーモードでは、初級者モードでも遊んだ3つのステージの高難易度版を1つずつ攻略していく。3つのステージを順にクリアーして、その先にある最終ステージ「浮遊大地ソリター」を攻略するとめでたくクリアとなる。幼少期の自分もこのストーリーモードをプレイしたことがあったのだが即刻ゲームオーバーとなり、100円が即効で消えていった無念さに悲しみを覚えたものである。以降は諦めて初級者用のポイントアタックモードばかり遊んでいた。
さて、この上級ストーリーモード、いよいよ本気を出してきたと言わんばかりの難易度で私の100円玉はどんどん吸い込まれて行った。ただ、連コインするとクリアしたステージを引き継げるだけでなく、クリアまでの難易度が低下するので、1ステージあたり2~3回リプレイすればクリアできた。
こうして3つのステージをクリアし、いよいよ最終ステージに到達した。この最終ステージは浮遊大地ソリターの名前のごとく、大空の中に浮いている小島を周回するステージで、マップ内に設置されている赤い球を時間内に全て破壊すればクリアである。このステージのみ一発勝負であり、失敗すると主人公機がレーザーで破壊されてゲームオーバー。連コイン不能で最初からやり直しになる鬼畜仕様である。
このステージがめちゃくちゃ難しかった。赤い球の位置が一部ランダムであり、最終ステージ開始時に周りを見渡して赤い球を把握することが攻略のコツらしいのだが、その前に散々自転車を漕ぎ続けてプレイしているため、疲れた身体では冷静な判断ができない。結局2回目のソリター失敗で心身疲れ果てた自分はギブアップしてしまった。
再挑戦は数年後の2021年である。また前回同様急にプロップサイクルやりたい!と思い立った自分は早速プロップサイクルの設置店舗調査からはじめた。どうやら南越谷からは撤収されていたようで、問い合わせてもどこに行ったのか行方不明となっていた。プロップサイクルの攻略には、毎回この設置店舗捜索という試練から始めなければならない。これも毎回試験会場が変わるハンター試験みたいな話である。
散々捜索した結果、「宇都宮のドンキ地下にあるゲーセンにある」という情報をtwitterで入手したので、早速「餃子を食べにいこう!」と妻を連れて一同は宇都宮へ向かった。
ちなみに私はよく「フ」ロップサイクルと呼んでしまう。フリップフロップ回路とごっちゃになっている可能性が高い。当初はSNSで「フ」ロップサイクルと謝ったワードで検索して、その情報量の少なさに唖然としたものだが、「プ」ロップサイクルと正しいワードを入れたところ、拍子抜けしたように設置情報を発見することができた。
宇都宮で餃子を楽しんだ後、その足でプロップサイクルの元へ向かい、再挑戦した。
前回同様、連コインを重ねてストーリーモードをクリアしていく。目指すは浮遊大陸ソリターである。前回「繰り返しプレイすると疲労で足がガクガクになる」という教訓を得ていたため、今回は短期決戦でクリアを目指す。
ついに1回目のソリター、だがあと一つの赤球を発見できずに撃墜!まだ体力があったので2回目のソリター挑戦を行う。
2回目のソリター、「ゲーム開始時に全体を確認して赤球の位置を記憶するべし」との記憶から全部の場所を把握し、最短ルートで赤球を壊していく。いよいよ最後の一つとなり、残した赤球の位置も把握できている。これはチャンス!
そして、制限時間に余裕を残し、最後の赤球を破壊する。そしてエンディング。20年越しのクリアは感無量であった。子供のころのやり残しを一つ回収できた瞬間である。思えばプロップサイクル捜索のために宇都宮まで来てしまった。長い旅路であった。
一つ目からそこそこの文量になってしまったのだが、最近になって他にも心に残したゲームをクリアしてきたので、次はその話をしていきたい。
ナンジャタウン もののけ探検隊
池袋のサンシャインシティにはナンジャタウンというテーマパークがある。東京に住んでいる方でもこのナンジャタウンに訪れたことがない方は多いのではないだろうか。
このナンジャタウンはナムコが経営している室内テーマパークであり、中ではライド型アトラクションやお化け屋敷など本格的なアトラクションで遊ぶことができる。
▲ナンジャタウン ホームページより引用(https://bandainamco-am.co.jp/tp/namja/)
2023年当時、アトラクション遊び放題チケットが3700円、17:00以降だと2000円で購入できるので、池袋での娯楽にもってこいのスポットである。
このナンジャタウンにもまた、私が小学生のころに残してきた「クリアできなかったアトラクション」があった。この施設の一部アトラクションは、そのスコアによってマルチエンディング性を採用しており、グッドエンドに到達するためにはそこそこのスキルが必要となるのだ。やりこみ要素として用意されたのだろうが、遊園地のアトラクションを周回前提の難易度にするとはさすがゲーム会社ナムコの意地である。
2023年12月、私はこのアトラクションを攻略するためにナンジャタウンへ赴くことにした。
まず一つ目、もののけ探検隊を攻略すべく一行は向かった。
▲ナンジャタウンHPより もののけ探検隊(https://bandainamco-am.co.jp/tp/namja/attraction/mononoke.html)
このアトラクションでは、施設内のホラースポットであるもののけ番外地を探索して、妖怪たちとクイズ対決をしていく。最後にラスボスである河童大王と早押し対決を行い、そのトータル正解数でエンディング分岐する・・・といった内容である。
こう聞くとほんわかホラーの類であるのだが、子供のころの自分はバッドエンドの内容のえぐさにトラウマを感じてしまった。
ストーリーは「河童大王が赤ちゃん猫ナンチッチを誘拐したので、妖怪とクイズ対決しながらナンチッチを救出する!」という話なのだが、バッドエンドになるとこのナンチッチが潰されてしまうのだ。檻に閉じ込められたナンチッチが潰されてしまう様は幼心にとてもかわいそうで強く印象が残っていたのだった。しかも、潰される瞬間に椅子がドスっと揺れるのだ。この衝撃もびっくり要素であり恐怖でしかない。
あれから20年以上も過ぎ、大人になった今ならば河童大王なんてひねりつぶせるだろうと意気揚々と妖怪たちが潜むもののけ番外地を闊歩していった。
施設内にいる妖怪を見つけ出し、クイズ対決をしていく。そして、そのクイズ正解数をアトラクション開始にもらえる「もののけたま」に記録していく。結局7問中6問正解という好成績を残して最後の河童大王の元へと向かった。
河童大王の前には檻に入っているナンチッチ。このナンチッチを救い出すべく、早押しクイズが始まった。多少悩みもしたが、まずまずの正解率で答えていく。
突然「失敗!」という文字が青LEDで光り、呆然としてしまった。そして、記憶の通り、ぺちゃんこに潰されるナンチッチ。そして椅子に伝わる衝撃にビビる私と妻。
結果がレシートのように紙に印刷されて出力された。これが結果である。
店員にこれを見せると、「あ~河童大王戦での正解率が低いですね」と言われてしまった。
どうやらもう少し早押しは早く押さなければいけなかったらしい。大人の自分でもクリアできないことにびっくりである。
ただ、幸いなことにこの時ナンジャタウンは結構空いており、私はこのバッドエンドを迎えた足でこのまま再挑戦に赴くことにした。諦めが悪いと呆れた妻の視線が痛かったが。
二回目、全く同じように施設内を回り妖怪と対戦する。前回よりも成績が落ちて7問中5問正解になってしまったが、まだ諦めない。店員から「河童大王戦は早押しが大事です!わからない問題があれば適当に押すくらいがいいですよ!」と聞いていたので、その通りに早押し問題はとにかく回答数を増やすことに注力した。回答がわからない問題であれば適当なボタンをすかさず連打!わかる問題でもたまに連打して誤答する事件が何度か発生したのだが、これがうまくいったのか二回目は「成功」と表示され、無事にナンチッチを救出することができた。これがその時の結果シートである。
得点を見ると、前回は14点でバットエンドだったのだが、今回は15点でグッドエンドだった。どうやら15点がエンディング分岐らしい。
最後の河童大王は10問も正解できていたが、正直クイズ力というよりは諦めの速さが大事だったように思える。おそらく20問程度回答して、その半分の10問くらいは正解できたのだろう。
ということで、無事にナンチッチを救い出すとともに、自分のトラウマも過去のやり残しも回収することができたのだ。
ナンジャタウン 蚊取り大作戦
しかし、このナンジャタウンには他にもバッドエンドとなってしまったアトラクションがある。これが「蚊取り大作戦」だ。現在は「爆裂!蚊取り大作戦」へとパワーアップしている。
▲ナンジャタウンHP 爆裂!蚊取り大作戦より引用(https://bandainamco-am.co.jp/tp/namja/attraction/katori.html)
写真のように、「豚平号」「豚子号」と呼ばれる豚のマシンに乗って、蚊を撃退するジェットスプレーのような銃で蚊を倒していくライド型アトラクションである。ちなみに、この蚊取り線香を入れる豚の陶器について調べたところ「蚊遣豚(かやりぶた)」という名前が実際についているようだ。
ストーリーとしては「人食い蚊が繁殖したから、これを撃退する会社の見習い社員として活躍する」という話なのだが、ゲーム終了後のスコアによって社員評価されてしまう。当時スコアが低いと「グータラ社員」やら「修理に余念がない社員」などとシニカルな評価がついてしまい、これに幼心にはたいそう不服だった。当時は待機列中に流れる映像も過激なもので、人食い蚊から逃げる市民を報道していた生放送のナレーターが人食い蚊に食われて骨だけになり、最後はその骨ごと食われて画面が「しばらくおまちください」に切り替えてしまうといった内容だった。当時とても怖かった記憶があるのだが、さすがに現在はそんなグロテスクな映像もなく、爆裂ジョー名乗る人間が耳に残る歌をエンドレスで歌い続けていた。
この蚊取り大作戦、2人協力プレイができるので妻に協力してもらって任務成功のグッドエンドを目指すことにした。途中2か所あるダイナマイトを破壊できることがグッドエンドの条件になるのだが、これがなかなか難しく、場所を覚えていないと破壊できなかった。特に二か所目のダイナマイトが難しく、どうもこのゲームも周回前提の難易度になっている気がした。
二回目の任務失敗で妻は飽きてしまったので妻の冷たい視線をよそに自分一人で列に並ぶ。いつもはアトラクション開始直前にストーリー説明パートがあるのだが、店員は一通り参加者を確認した後で「もうみなさんストーリーは聞かれていると思うので、このまま案内しますね」と直接乗り物へ案内してくれた。どうやら一度読んだルールはにスキップできる機能があるようだ。
3回目になるとさすがにダイナマイトや蚊の配置も覚えられるので、適切なタイミングで蚊を退治しつつダイナマイトを破壊していく。ネットで検索した限りだと、2人プレイだと70%の討伐率が必要なのだが、1人プライだと60%の討伐率で任務成功となるらしい。それでも、一人だと全ての蚊を退治するには時間が足りないので蚊の配置を暗記することがこのゲームクリアには必須なのだろう。
結果、一人で大ボスの巨大蚊も討伐することができ、無事に討伐率70%の任務成功、グッドエンドを迎えることができた。バッドエンドだと怒り狂った社長にダイナマイトを投げつけられるバッドエンドになるのだが、グッドエンドになりようやく社長に表彰されるに至った。達成感もひとしおである。
やったねと思いつつ討伐時の写真を確認したところ、腕組みしながらドヤ顔で豚平号に乗っている自分の写真が写っていた。どうやら任務成功時に写真撮影が行われていたらしい。いい歳こいてなぜライド型アトラクションを周回しているのだと妻と同じ冷たい視線を自分自身に向けることになり、一瞬冷静になってしまったのだが、まあいい。小さい頃のやり残しを回収することができたのだ。
これからも「やり残した思い出を回収する作業」を見つけ次第、取り組んでいきたいものである。