【怪談】俺の知らない隠しイベントが追加されている

(この話にはいくつかフィクションをいれています。また、あるフィクションについてはあなたが現在置かれている状況によっては真実になる可能性もあります。人生設計を今一度ご確認の上自分の人生に責任を持ってご覧ください。)

序章

最近、俺の周りで変化が起きている。

そしてそれは、俺の作ったゲームが原因のようなのだ。

ある日、ゲーム制作者仲間のヒロムさんから呼び出しを受け、

東京 恵比寿の喫茶店で話をすることになった。

「実は、会社やめてゲーム制作に専念しようと思うんだ」

突然の報告に俺はびっくりした。

夕焼けの日差しで暖かくなったアイスコーヒーの氷がからんと音をたててコップの底に落ちる。

「今のゲームに俺のすべてを注ぎたい。」

ヒロムさんは覚悟を決めた男の表情で俺を見つめていた。

この決断を報告するために俺を呼んだのか。

同じゲーム制作者仲間としては、この決断は応援せざるをえない。

おえない・・・が、一応経済的に独立している30過ぎの人間として、一応確認しておくことがある。

「しばらくは、お金の心配は必要ないのか」と。

「一応、今の生活を切り詰めれば1年間は持つ」

「俺は独身だから、身軽に動けてよかったよ」

「それに、最近は出版社がインディーゲーム開発者に投資してくれることが増えてきたから」

「それを元手に生き抜いて、なんとかこのゲームを公開まで持っていくことにするよ」

ヒロムさんの人生をかけた決断に、俺はたじろいでしまった。

収入がない状態でゲーム開発するということは、想像の数倍プレッシャーとなってのしかかっているはずだ。

生活の保障がない状態では、人は思った以上に動けなくなるものである。

最初のころに考えていた野望の実現を考える余裕もやがてなくなり、最後にはただ目の前の生活に必死に生き延びるだけの存在になってしまう。

心理学者、マズローの欲求5段階説によれば、毎日の食事や安全が保障されてはじめて、その上位の社会的欲求を求めることができるという。

そのような未来が想定される状況にもかかわらず、この決断を下せる勇気は、正直今の俺にはない。

「お前のゲームが俺を後押ししてくれたんだ」

またか・・・、と俺は唖然とする。

喫茶店を後にして、恵比寿駅へ向かう。

夕暮れ、仕事でくたびれたサラリーマンが駅から出ていくのと対照的に、

憑き物が落ちたようなヒロムさんは颯爽と帰りの電車に乗って帰っていったのだ。

無謀ともいえる決断を後押しする”怪異”

実は最近、俺の周りの人間がどんどん「重要な決断を下す」ことが増えてきた。

あるものはお笑い芸人を目指すために養成所に入りなおしたり、

またあるものは、美術家として活動をはじめるようになった。

みんな職種は違えど、それまでは普通に社会人として、普通に働いていたというのに。

話を聞くと皆、こう答える。

「お前のゲームが俺を後押ししてくれたんだ」

そして、みんな決まって憑き物が落ちたような顔をするのだ。

いや、さすがに買いかぶりすぎではないか。

確かに娯楽は時に人を勇気づけるというけれども、

そこまで決断を促すようなものを、俺はいつ作ったのだろうか。


詳しく話を聞くと、みんな決まって同じゲームに影響を受けたという。

ただ、ここからが奇妙なのだ。

みんな口をそろえて、俺の知らないゲーム内隠しイベントの話をはじめるのだ。

そんな隠しイベント、実装した記憶がない。

単に忘れているだけだろうか。いや、苦労して制作したゲームの内容を忘れることなんて考えられない。

誰かが、俺の知らない間に勝手に隠しイベントを追加したのだ。

そのゲームは、このサイト「作っちゃうおじさんのゲーム置き場」でいまだに公開されている。

https://hothukurou.com/

最初は物好きなハッカーが勝手にサイトを改ざんして知らない機能を追加したのかと思ったが、どうもそうではなさそうだ。

ということは、自分が寝ぼけて書いたのか。いや、そんなことはないだろう。

ともかく、俺が知らないゲーム内イベントが存在していることは確かのようだ。

そしてそのイベントは、見たプレイヤーの意識に何らかの作用を引き起こしてしまうようで、

俺の周りの人間は、この作用によって「人生における魅力的だが危険な決断を下す」ようなのだ。

ここまで人の行動に影響を及ぼす機能は、さすがに怪異の一種と捉えた方が適切だろう。

そしてこれは危険な怪異だ。あなたの今後の幸せで平和な人生設計を狂わすものだからである。

確かに、人生には目標が必要だ。身を焦がれるほどに輝く人生の目標は生きる希望であることは間違いない。

しかし、可能性やリスクを無視して目標のためにすべてを捧げてしまうことの恐ろしさは想像に難くない。

その希望を追い求めて、後戻りできなくなった時を想像してほしい。

どうしようもない沼地の深みに嵌ってしまったあなたは無限の絶望の中で苦しみ続けるのだ。

そんな絶望へと誘導するかもしれない隠しイベントが存在するゲーム、そのゲームは【パネル反転ゲーム】雪山の山荘と記憶パズル である。

https://hothukurou.com/game/Memory/index.html

一つ安心していただきたい点がある。

普通にプレイする分にはほぼ間違いなく「怪異の隠しイベント」には出くわすことはない。

なぜならその隠しイベントは、ゲームをクリアしてから複雑な工程を踏まないと出現しないからだ。

なので安心してクリアまでプレイしてほしい。

そういえば、このゲームを公開した当初からコメント欄には、本来ならば存在しないステージを遊んだという書き込みが複数あった。

このゲームは全28ステージである。

それなのに「存在しないはずの29ステージを遊んだ」という情報が幾度も書き込まれているのだ。

(2021/8/2付近のコメントから引用)

自分のゲームにはときどき、そういった隠し要素を入れることがあり、今回もそういったことに期待したファンが書き込んだでたらめだろうと思っていた。

だが、この書き込みはどうも真実のようなのだ。

実際にヒロムさんからもこの隠しイベントの出現方法について教えてもらった。

どうやらクリア後も遊んでいたところ、偶然発見したとのこと。

怖くてまだその隠しイベントを試していないが、その出現方法はメモに残している。

幸せの局所解とそのメカニズム

ところで、このゲームのテーマは「幸せの局所解」である。

局所解とは、数学の用語である。

おおまかに説明すると、「答えに近づいているかという情報をもとに探索して、答えを探していく方法」を使ったとき、最も回答に近そうな値のことである。

例えば、お金がほしい思ったとき、まずはバイトを始めてお金を稼ごうとするだろう。

いずれは正社員になって賃金を上げていき、最終的には高級な役職に就任しよう・・と進んでいくことで「得られるお金の額を増やすこと」が探索である。

理想的には、今の仕事をより頑張ることで得られるお金の額を増やすことができるだろう。

今の仕事を地続きに努力をしていけば、連続的に収入額が増えていくことが多い。

だが、この探索を続けるといずれは「ここからはどう行動してもお金が減る行動だからやめよう」と思う瞬間がある。

この瞬間、「最もお金を稼ぐ」という目的に近い位置にいることになる。これが局所解だ。

本当は独立するとか、より高給な別業種に転職することで、よりお金を稼ぐことはできるはずである。

そのためには「今の待遇から離れて、損をしなければいけない」という大いなるリスクを背負う必要がある。

たとえリスクを負ったとしても、その行動が必ず解答に近づくとは限らない。

リスクを背負って行動することは、とても覚悟がいる難しい決断である。

よほどつらいことがない限り、この決断を行わない人がほとんどである。

そうして人はいつのまにか、幸せの局所解の中で、毎日の苦痛に文句をいいながらも幸せを過ごしていくのだ。

思えば子供のころは、「とりあえず学校に通う普通の生き方をしていれば、大人になれるのかな」と思い込んでいた節がある。

そして、周りからの評価を真に受けて、まともに生きることができるように良い大学に入り、大企業で働いていく。

現実には「普通に生きること」はとても難しいことなので、二三回転んで「少しみんなが思う理想とは離れた場所」に着地することがほとんどなんだけれども。

それでも大なり小なり人の人生は「みんなが一番良いと思う幸せの局所解」にむけて収束していく。

その生活に不満がないのならば、何の問題もない。

ただ、みんなが思う理想の環境など存在しない。たいていの場合は人間関係の問題により、最適かと思った場所なのに苦痛を感じることだってあるのだ。

苦痛なのに、局所解だからリスクを負わないと逃げ場がない。だから苦しむ。

今回発生した怪異は、そんな苦しむ人を後押しするような性質があるらしい。

この怪異は、この閉塞した社会に求められて生まれた怪異なのかもしれない。

隠しイベントの出現方法と魅力的な誘惑

読者の中には、この隠しイベントをどうしても探したい、自分の決断を後押ししてほしいという方もいるかと思う。

著者の過去作には「幸せの局所解からの脱出」がテーマとなるゲームがいくつかある。

そのうちの一つのゲームページ内に、「隠しイベントへの出現方法」を書き残すことにした。

もしあなたが、今の人生を苦しいと感じていてどうしようもないのならば、その隠しイベントを探してみるとよい。

もしその隠しイベントを見つけても、決してその方法を人に伝えてはいけない。

よくクイズの答えを「自分はすごいんだぞ」とドヤ顔で話す人がいるが、そんなことで自尊心を満たしては、つまらない局所解に嵌ったままの人生になってしまうだろう。

幸せの局所解から脱出するためには、「自分が一時的に不幸になることを覚悟する意思の強さ」と、「周囲の意見に流されずに自分で判断を行う頭の良さ」が必要だ。

できれば、その両方を持っている人間に隠しイベントを探してもらいたい。

そのために「隠しイベントへの出現方法が書かれたページ」はここに記述しない。

ぜひ自分の力で探してほしい。

ただ、万が一あなたがどうしても詰まってしまったときのために専用のコメント欄を用意した。基本的にこの隠しイベントに関する話題をこのコメント欄の中で行うこと。他ゲームのコメント欄に書くと、そのゲームの感想が見づらくなってしまうためだ。

https://hothukurou.com/game/MemoryStage29/index.html

結局のところ、人間は常に今よりもより幸せを追い求め続ける存在だ。

自分の今後の人生について責任を負うという恐怖に震えつつも、いつかは清水の舞台から飛び降りなければいけないときがやってくるのだ。

俺も本当はこの隠しイベント確認したい。そして、重要な決断を下したいと思っている。

思っているのだが・・・。俺には家庭がある。

妻や子供の安心しきった寝顔を見るたびに、そういった決断を容易に下すことができないと自分に言い聞かせているのだ。

あまりにも背負うものが多すぎる。もう自分の人生は自分だけのものではなくなっているのだ。

本当にやりたいことは、まだ心の奥に幽閉しておくことにする。

ただ、希望を捨てることほど難しいことはない。

どうしても、辛い仕事が重なったときにこの話を思い出してしまう。

そして、ついつい「【パネル反転ゲーム】雪山の山荘と記憶パズル」のページを開いてしまうのだ。

 

俺も、いずれそのページを開いてしまうかもしれない。

お借りした素材・人物

画像:ぱくたそ(https://www.pakutaso.com/)

ヒロムさん:ウェレイ(https://twitter.com/weray166)