寒さが一層際立つようになったある日曜日、
こたつでごろごろしていたら、あっという間に午後5時になってしまった。
このままでは無駄な一日としてカウントされてしまう・・・ことを恐れた私は、
京都行きの電車に飛び乗ったのであった。行先は嵐山。健康ランド目当てである。
11月にもなると、午後6時でもう真っ暗闇である。嵐山といえば、紅葉彩る山々であるが、そんな景色を見ることができないまま、目的地の健康ランドへ向かった。
私はサウナと水風呂の往復が好きだ。なんか頑張った感あるし、健康になった気がする。気分もしゃきっとする。
自分に鞭打つため、敢えて寒空の中水風呂に入ってからサウナへと入ることにした。
サウナの中にはもう一人いた。外見からしてお坊さんか。5分の砂時計の前を陣取りつつ、砂が落ちるのをひたすらみつめていた。
私はこの人より後に出ようと思った。事前に水風呂に入っているのでどう考えても自分に分があると思ったからだ。サウナでは周りが敵になる。先に出た方が、負けだ。
かくして、嵐山サウナの戦いは切って落とされた。
・・・2分すぎたあたりで、お坊さんが砂時計をひっくり返した。もう5分滞在していることになる。
・・・7分、お坊さんんが砂時計をひっくり返した。お坊さんは窓の外の景色を眺めている。水風呂で冷えた私の体がようやく火照りだした。これからが本番だ。
・・・10分、全身が熱い。もう出たい。しかし、隣のお坊さんは一向にサウナから出るそぶりを見せない。恐らく、砂時計の砂が落ちきるまでは出ないつもりだろう。最後に砂時計をひっくり返したのは7分だから、12分後には外に出るはずだ。全身汗だくになりながら、私はそれまで耐えることにした。
・・・12分後、砂時計が落ちきった。お坊さんはそのことに気が付いていない。早く気が付いてくれ、と私は思っていた。ようやく気が付いたお坊さんは、空になった砂時計をしばらく見つめた後、砂時計をまたひっくり返した。まだ居座る気なのか。私は完全に心が折れてしまった。
結局、13分後に私は外にでた。外に出て夜風で体を冷ましながら、サウナ室を見ると、まだお坊さんはサウナの中にいた。相手の実力を見誤った。戦う相手を間違えてしまった、と少年漫画で負ける三下レベルのことをぼんやり考えながら、暗くなった嵐山の空を眺めていた。
サウナで我慢した後の水風呂は最高である。水風呂に使っていると、さっきのお坊さんが入ってきた。長時間水風呂で瞑想を行っているお坊さんを見て、様になっているなと思った。まさしく日々の修行の賜物である。