最後まで読みたくなるシナリオ作成技法「ワニ技法」

魅力的なシナリオが作れねええええ!

私はゲーム制作者なのですが、ここ三年くらいは意識してストーリーをゲームに取り入れるようにしています。

ただのミニゲームであっても、ストーリーを加えることでそこに深い世界観が構築されて、プレイヤーを没入させることができるからです。

しかしながら、ストーリー作成にありがちな問題として「うまくストーリーにハマらないと読まなくなる問題」というものがあります。

ソシャゲのストーリーパートが最たるもので、「読んでもつまらないから即SKIPボタンを押す」という方も多いのではないでしょうか。

これでは、「ゲームにストーリーを追加する恩恵」を全く受けることができず、ストーリーがただの「ゲームプレイ時間をかさ増しする手法」と化してしまうでしょう。小学生が読書感想文でやたら引用文を書いて文章のかさ増しを行う技法と近いものを感じますね。

今回はこの問題の解決策として「読者の興味関心を持続させるためのワニ技法」について解説していきたいと思います。

ワニ技法とは

ワニ技法とは「不吉な予感を描写することで、その予感が現実になる瞬間を見たくなる」というストーリー作成テクニックです。
この手法で制作すると、ストーリー途中での離脱率を減らすことができます。
由来の元になった「ワニ」ですが、これは遊戯王カードに登場するモンスター「ギゴバイト」や「100日目に死ぬワニ」などで使われていたために命名しました。実際に見てみましょう。

・ギゴバイト今はまだおだやかな心を持っているが、邪悪な心に染まる運命を背負っている・・・。

引用:遊戯王 カード詳細( https://www.db.yugioh-card.com/yugiohdb/card_search.action?ope=2&cid=6019&request_locale=ja )

この可愛いモンスターカードのフレーバーテキストには不吉な将来の暗示が書かれており、これを読んだ私達は、ついついこのモンスターの悲惨な結末を予想してしまいます。

このカードが成長した姿は他のカードで見ることができます。どんな姿か興味がわいてしまいますよね。

かつては邪悪な心を持っていたが、ある人物に出会う事で正義の心に目覚めた悪魔の若者。

引用:遊戯王 カード詳細( https://www.db.yugioh-card.com/yugiohdb/card_search.action?ope=2&cid=6019&request_locale=ja )

強大な悪に立ち向かうため、様々な肉体改造をほどこした結果恐るべきパワーを手に入れたが、その代償として正義の心を失ってしまった。

引用:遊戯王 カード詳細( https://www.db.yugioh-card.com/yugiohdb/card_search.action?ope=2&cid=5871 )

既に精神は崩壊し、肉体はさらなるパワーを求めて暴走する。その姿にかつての面影はない・・・。

引用:遊戯王 カード詳細( https://www.db.yugioh-card.com/yugiohdb/card_search.action?ope=2&cid=5946 )

なんだか、どんどん世界観に引き込まれてきましたね。これが「ワニ技法」の真価です。ガガギゴ関連のカードは上記以外にもあるのでついつい「不吉の真相を探求したくなる欲求」に駆られてカードを集めてしまうのです。

この現象を元にワニ手法をまとめますと、以下のようになります。

「不幸な未来」を設置して、ストーリーのどこかに「不吉の前兆」をそれとなく描写することで、読者の興味を引き付けることができる。

また、ワニ技法を入れることで、以下2つの恩恵を受けることができます。

・ストーリーの興味関心を高めて、離脱率を下げることができる

・ストーリー内の細かな伏線・出来事にも興味関心を高めることができる

では、ここからもう一つの具体例「100日後に死ぬワニ」をみてみましょう。

100日後に死ぬワニ

この物語は「100日後に死ぬ」という不吉な明示により、ささいな日常の一挙手一投足にも意味を感じてしまう、という仕組みになっています。

本日(2020/3/14)時点、93日目のワニくんはとても元気そうで、とても後9日で亡くなるとは思えません。
平和な毎日がなぜ「死」という不吉な出来事に一変してしまうのか。

この不吉が現実になる瞬間を見たいがために、ついつい最後の日まで読んでしまうのです。

一つ興味深い点として、「あらゆる出来事を入念に調べる考察勢」が出現していることです。「未来の不吉な暗示」がどんなものであるか見たいがために、つい「不吉の兆候」を探してしまう。

これは、襲いかかる不幸を避けようとする人間の本能的な習性なのかもしれません。

チェーンソーマン

第一話はtwitterに上がっていたので共有します。

この作品でのこのワニ技法は「上司の狡猾な性格」により成り立っています。

この話の1話最後に登場する公安のデビルハンターは一見すると可愛い女性ですが、主人公を色気で利用し、自分の目的を達成しようとしている描写が随所に見受けられます。

2話以降では、主人公はきれいな家で普通の食事を楽しめる日常を送れるようになり、待遇はだいぶ良くなります。

これを見て読者は束の間の安心を覚えるのですが、上司が主人公を色気を使ってうまく使おうとしている様を見ると、「ヤクザに飼われていた頃と同じように使い捨てされる」ような今後の悲惨な結末を感じてしまうのです。

その結末みたさに、読者はこの世界観にのめりこんでしまうのです。

まとめ  

以上でワニ技法の説明を終了します。

不吉な未来」とそれを予感させる「不吉を連想させる描写」を取り入れることで、読者の興味を加速させることができるという手法でした。

この手法はあくまでテクニックであり、一番大事なのは「自分がどんな世界を表現して、どんな気持ちを伝えたいか」という理念だと思います。

ただ、理念だけでは退屈なのもまた事実なので、自分の伝えたい想いをより伝えやすくする技法としてご活用いただければと思います。

ここからはこの技法がなぜ有効なのかという考察になります。

この技法の根本のメカニズムは人間は不幸という恐怖を避けるために恐怖を予感させる不安の原因を探そうとしていることに由来しています。

ここでは「恐怖」は恐れている対象が明確であること、「不安」は恐れている対象が不明であることと定義しています。

世の中には漠然とした不安を解消するために人はなにかをこじつけようとします。

「雨の日には悪いことが起きる」みたいな、周期性を無理やりこじつけることで不安の原因を解明しようとするのです。

そして、どんな方法であれ不安の原因を解明することで、安心を獲得することができます。

不安がなくなることで人は快楽を感じます。そして、新たな不安を感じるまでのつかの間の幸せを得るのです。

そもそも人間は生きている限り、未来には何らかの不安を感じる恐怖があります。最終的な恐怖は死でしょう

そんな未来の漠然とした不安が続くラットレースから逃れられる瞬間が「間近に迫った不安の解消」です。間近に迫った不安の解消した安心を感じると、遠くの不安を一瞬だけ忘れることができます。

不安を解消する快楽を感じるために、恐怖や不安を題材としたコンテンツがあるのでしょう。

以上です。最後までご拝読いただきありがとうございました。